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鷲田 清一

幼い頃、母親が長く病の床に伏せっていたので、よく近所の商店街に買い物にやらされました。ビニールの買い物籠をもって、お肉屋さんにコロッケを買いにいくのがいやでした。揚がるのを待つあいだ、同級生に見つかるのがいやだったからです。八百屋さんや傘屋さんのおばさんに「えらいねえ」と声をかけられるのもいやでした。そっとしておいてほしかったからです。だからいつも一目散で帰りました。

  鷲田 清一  
     
 

子どものときは、あの商店街のおじさん・おばさんたちの視線がいやでいやでしようがありませんでした。でも、いまになって思います。買い物籠をもって走るわたしの姿をちゃんと見ている近所の大人たちの視線に、見守られ、そして鍛えられたのだ、と。

よその子どもたちを見て見ぬふりをする大人たちが、かつての地域にはたくさんいました。いまは、ちゃんと見ないで、見たようなことを言うひとが多すぎます。大人に監視されるのではなく、見て見ぬふりをする大人にまじって自然に育つ、そんな環境が、いまの子どもには必要だと思います。