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最新レポート

第34回有識者会議 基調講演:高際伊都子さん (渋谷教育学園 渋谷中学高等学校副校長)

  • 2014年7月2日
  • 有識者会議

渋谷教育学園 渋谷中学高等学校副校長

「こころを育む総合フォーラム」の第34回ブレックファスト・ミーティング(有識者会議)が6月3日朝、東京・千代田区の帝国ホテルで開かれた。
 この日、ゲストスピーカーに迎えられたのは東京・渋谷教育学園渋谷中学高等学校の高際伊都子副校長。「グローバル社会の子どもたち」と題する基調報告で、高際さんは現代の中高生が取り巻かれている環境を具体的に説明し、学校と社会に何が求められているのかを語った。日本人の「こころ」のあり方を探り続ける出席メンバーは、いずれも強い刺激を受けた様子で各自の意見や質問で熱い2時間を過ごした。高際さんの報告要旨は次の通り。


 今日は自分のこれまでの経験を交えて、今学校でどんなことが課題になっているかを報告させていただきたい。
 25年の教員経験を振り返ってみて、子どもたちを取り巻く環境で一番大きな変化は情報化社会――SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)と携帯電話の普及だと思う。保護者は家族の連絡ツールとして携帯を子どもに持たせると考えるのに対して、子どもたちは家族との連絡よりも友達との連絡ツールと考え、実際にそれに長い時間をかけている。特に最近、無料で使えるLINEが出てきたことによってリアルな世界で毎日会う友達とでも、24時間ネットでつながっているという状況が起こった。調べものをするときに、今の子どもたちはネットを使うのが当たり前になっている。便利な携帯の規制は難しくなってきているのが実情だ。
 私はLINEの普及によって子どもたちの世界が窮屈になっている印象を持っている。今のLINEは15秒ルールだそうで、確認したら即返事をしなければと思ってしまうようだ。“既読スルー”といった言葉で相手を非難するようになってしまう。学校行事で宿泊した際に、ルール違反のため、夜間に大勢の生徒の携帯を預かったことがあるが、取り上げると言ったら半ばホッとしたような顔で預ける子どもがいた。ネットで24時間つながっていることに疲弊感があって、誰かにとめてほしい気持ちもあるのではないだろうか。ネット上のほうがリアルな世界よりもコミュニケーションに気を使うと聞くと、一体何のために人とつながっているのかが分かりにくくなっているような気がする。また、最近の報道によれば、長い文章を苦手にしている若者が増えたそうだ。読みやすい本として、展開が速い、文が短い、1ページ読むと話が次々展開していく……バーチャルなゲームを文字化したような本がよく挙げられるが、それだけでは、言葉の力が下がってしまうのではないか。これは今後の大きな課題だと感じている。
 その一方、子どもたちは社会から「学力低下だ」、「勉強しない」と言われ続けている。あまり喜ばしい未来を描けないのに、我慢して勉強し、将来活躍しなければいけないと言われる。日本の高校生に将来望むことをきくと、「安定」という答えが多くなっているそうだ。安定した生活を望むことは当然だと思うが、結果他者から認めてもらえる「資格」に興味・関心が向かい、その情報に縛られすぎて、自分の未来を自分でつくる自信が持てないように感じるときがある。また「グローバル化」というキーワードがあるが、これは地域や学校による格差が大きい。グローバル化に対する危機感は、都市と地方では隔たりがあるのではないか。さらに、経済格差の問題もある。最近の調査によれば、学力や生活習慣のあり方と、家庭の経済力に相関があるとの結果が浮かび上がってきた。社会全体で格差が固定化し、負のスパイラルができてしまう恐れがある。
 「響かない子どもたちが増えた」という話もよく聞く。リアルの世界とバーチャルの世界の情報でおなかがいっぱいになり、欠乏感を持ちにくい。今の子どもたちは「リアルな我」と「バーチャルな我々」の中で生活している。ネットを使い慣れているので、何か知りたいことがあればまずネットに接続して、質問サイトで答えを待つ。この実情を学校の先生たちは真剣に考える必要があるのではないか。日本語に限らず英語でも、子どもたちが手で文字を書かなくなってきていることも心配だ。学校での学びの変化やICT環境の充実なども進められているが、それでもなかなか実情に追いつかない。
 また、メディアでも取り上げられたが、多くの学校で「スクールカースト」も課題になっている。生徒間の一種のランキングで、上位に来るポイントは、容姿、コミュニケーション力、面白いことが言えて笑いがとれることだそうだ。コミュニケーションが苦手だが、物事をよく考えたり本が大好きだったりする子どもたちが「空気が読めない」とされ、学校では生き生きしづらい状態になってしまうことが心配だ。また、自分の特徴を何らかのキャラクターに置き換えて認識してもらう「キャラ化」と呼ばれる現象もある。まじめキャラ、お笑いキャラ、モテキャラ、非モテキャラ、オタクキャラ、……周りを見ての相関関係でキャラを作り、何とか和になろうとしているように感じる。望まないキャラに悩む子どももいるので、キャラの固定化を防ぐことは先生たちにとって頭の痛い問題になっている。班や掃除当番などのチームを頻繁に変えるように工夫しているが、クラブ活動となればそれも難しい。いじめの構造も今はバーチャルとリアルがあるから、24時間いじめ状態というようなことにもなる。保護者が「帰宅した子どもの携帯を、時々は見る」ことも必要だと思う。
 この「こころを育む総合フォーラム」の活動の中でも一番難しいのが中学生、高校生の「こころ」を育むことだと思う。自立期に入って大人と距離を置き、周りの友達を見ながら成長したいと願う年代だ。本人たちの自尊心や達成感を大切にしながら、それぞれの個性を認証しあえる取り組みが大切なのではないか。大人も子どもも均質だけでなく、多様性と向き合うことが必要だと感じている。また、中高時代に、居心地のいい環境を求めるだけでなく、その環境をつくる方法を身につけよう、と伝えたい。これまでと同じやり方では「響かない子どもたち」に、どうしたら響かせることが出来るのか。固定しつつある子どもたちの層をリアルでもバーチャルでもいかにして崩すのか――。そういう大きな課題が今、私たち大人には与えられているのだと思う。

 

後援
  • 文部科学省
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