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第40回有識者会議 基調講演:山田昌弘さん (中央大学文学部教授)

  • 2016年5月9日
  • 有識者会議

第40回ブレックファスト・ミーティング レジメ 基調講演:山田昌弘さん (中央大学文学部教授)

 「こころを育む総合フォーラム」の第40回ブレックファスト・ミーティング(有識者会議)が4月12日朝、東京・千代田区の帝国ホテルで開かれた。
 この日は、中央大学文学部教授(家族社会学・感情社会学・ジェンダー論)の山田昌弘さんが「日本家族のこれから」をテーマに基調講演を行った。パラサイト・シングル、格差社会、婚活など、現代社会を読み解くキーワードを次々と世に問い、定着させてきた山田さんならではの刺激的な内容で、出席した有識者との間では「家族」のあり方をめぐって熱心な意見交換が行われた。山田さんの報告要旨は以下の通り。


 今の日本の状況は、典型的な家族を作って保てる人とそうでない人への分裂が起きていて、後者が増大していることだが、これからは格差を伴い多様化、リスク化、不確実化していく。例えば30代の人は一人暮らし、親同居未婚、夫婦世帯、親同居ひとり親、ひとり親など様々な形態の家族が並存するだけでなく、それらを一人の人が次々と経験することも多くなっていく。国立社会保障・人口研究所の予測によると、今の30代以下や2030年に50代の人は、生涯未婚率が25%、無子率40%、離婚経験率35%。今の若者のうち、結婚して離婚しない人は二人に一人ということになり、子供がいて亡くなる人は40%にすぎない。学生にこれを言うとみんな暗い顔になるが、今の70代が未婚率3%、離婚経験率10%であることに比べると大きな変化だ。離婚も1990年代から増大して、最近は減りぎみだがそもそも結婚する人が少なくなっている。
 近代の家族を「自分を必要とし、大切にする存在」と定義すると、それは社会保障の単位だと言える。お互いに生活保障を行って、家族がいれば人並みの生活が送れ、いざとなった時に助けてくれる。アイデンティティーの保証という側面もあり、家族がいれば寂しくないしプライドが保てる。つまり居場所があるという意味でのアイデンティティーだ。戦後の典型的な家族は「夫は主に仕事、妻は主に家事で、豊かな生活を目指す」というものだった。豊かな生活の中身とは住宅、家電製品、子供の教育、家族でレジャーに行くことなどで、家計は男性に依存するというのが戦後型家族の典型だ。それを形成・維持できたのはライフコースが予測可能――ほとんどの人が結婚して離婚せず子供を育てたからだ。その前提として、男性(夫)の収入が安定してだんだん増えていく見通しがあった。ほとんどすべての男性が収入の上がる正社員や保護された自営業者だったので、それが可能だった。結婚した当初は狭い社宅や公団であっても、夫の収入が増えてくるので妻が専業主婦でも豊かな生活が築けて、子供も大学に行きたければ行かせるだけの家計を負担できたわけだが、すべての男性正社員が終身雇用・年功序列でだんだん収入が増えるという条件は、実は危うい前提だった。
 変化が起きたのは、まずオイルショック後の低成長期。若年男性の収入の伸びが鈍ってきた。高度成長期に一人暮らしが結構多かったのは、地方から集団就職などで大都市圏に来た人たちがたくさんいたからだが、1970年代以降、その流れがだんだんストップして、都会で親と同居しながら育つ若者が増えてくる。すると、親と同居してそこそこいい生活ができているのに、なんで結婚して貧乏にならなければいけないのかというわけで、男性の収入が高くなるまで結婚を待つ晩婚化傾向が始まる。同時に、既婚女性のパート労働者化が進んでくる。実は正社員の既婚女性というのは70~80年以降ほとんど増えておらず、逆に正社員同士の夫婦は減っていて、働く既婚女性で増えているのはパートタイムばかりになってきた。「豊かな生活を目指す性役割分業」の基本は崩さないが、微修正を迫られる時代になってパラサイト・シングル現象が生まれ、増大していく。彼ら・彼女たちは「一時的に親と同居して独身生活を楽しんでいるが、いずれは結婚して子供も持つものだ」と思っていたのだが、結果的に結婚せず親と同居したまま中高年になっていく人たちが現れてきたのが現状だ。
 1995年から、いわゆる新しい経済が浸透してきて、職が二極化してくる。新卒一括採用・終身雇用という硬直的な労働慣行のため男性収入が二極化し、正社員であっても安泰ではない人たちが増えてきた。結局、「一人の収入では妻子の豊かな生活を支える見通しが立たない」男性が増え、主に稼がなければいけないのは男という固定的な役割分担意識が残存している。欧米との大きな違いで、未婚者は親同居(パラサイト)が一般的だから理想の相手が来るまで待てるわけだが、結婚したくてもできない、いつするか分からない、結婚していたくてもできない、いつまでしていられるか分からない――つまり結婚に関する予測可能性が今はすごく低下している。若者世代では知らないうちに経済力や魅力による階層分化が進んでいて、典型的家族を作って維持できる層が少しずつ減っている。典型以上の家族を作れる層はそもそも少数で、いわゆる〝できちゃった結婚〟による不安定な既婚子持ち層、親同居未婚層、親にパラサイトできない低収入未婚・離別層など、典型からはみ出る層が増えてきている。
 欧米では、そもそも典型的家族はモデルではなくなって共働きや同棲、非嫡出子、婚外子が増え、女性の社会進出なども浸透している。それは、女性でも親とは同居せず自立して生活しなければいけないからで、二人で暮らす同棲やシェアハウスが増えているのだが、日本では親と同居して待てるのでとりあえず親と同居している。現在では、母子家庭も含め収入が低い若者から中高年が増えてきており、それが引き起こすさまざまな問題は私の研究テーマでもある。若者について言うと、〝内側〟に入れば安心、内側からこぼれれば不安定で、だから就活や婚活で内側に入ろうと必死に努力する。学卒の時はリスクを負わず、とりあえず大きな企業に入ったり地方公務員を目指したりする人が男性では特に多い。リスクがあってもやりたいという人はどこへ行くかというと、これは特に女性が多いが海外に出る傾向が強まっている。しかし大多数の人、特に男性では安定志向が目立つように思う。結婚もそうで、とにかく好きな人と結婚して楽しく暮らそうよというのが婚活の本来の目的だったが、正社員と早く結婚するための努力になってきてしまった。
 家族の将来をめぐっては、バーチャルな家族への逃避という問題がある。親と同居している限り生活はできるが、努力が報われないと思ったら希望は生じない。ではどこで努力が報われるかというと、それはパチンコやゲームといったバーチャルな世界のようだ。親と同居し、アルバイトしながらパチンコに熱中してどんどん年を取っている人が実に多いのではないか(もちろんメジャーではないにしても)。家族ペットやメイドカフェなど、バーチャルな〝家族〟に自分が大切にされ必要とされていると一時的に感じさせてもらっている人が多いのも現実。親と同居できる人はまだしも、それができず低収入で自立せざるをえない若者、まともな仕事からも結婚からも排除される若者の出現はアンダークラス化の兆候だし、児童虐待の増加、家族がいない中高年の孤独死の増加なども心配だ。日本社会は家族があることを前提に作られているので、そうじゃない人がどうなるかということに関しては、実は社会保障などから全く放置されている。ディストピア(ユートピア=理想郷の反対語)を防ぐには、家族を形成しやすくする支援策だけでなく、家族が不安定でも、いなくても、孤立せず貧困に陥らないような施策が必要だと思う。このまま行くと、日本は階級社会化が起きているのではないかと懸念しているところである。

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